名は?」
「竹田|妙《たえ》|子《こ》といいます」
「いまどこに住んでいるの?」
まるで口頭試問をうけているみたいである。
文彥の答えに耳をかたむけていた老紳士は、やがてふかいため息をついて、
「文彥くん、きみはたしかにわしのさがしている少年にちがいないと思うが、念には念をいれたい。左の腕を見せてくれんか。また、さっきのようなことがあっては……」
さっきのようなこととはなんだろう。そしてまた、なぜ左の腕を見せろというのだろう。……文彥はまた、なんとなくうす気味悪くなってきたが、そのときだった。あの奇妙な物音が聞こえてきたのは……。
どこから聞こえてくるのか、隣のへやか、天じょううらか……いやいや、それはたしかに地の底から聞こえてくるのだ。キリキリと、時計の歯車をまくような音。……それがしばらくつづいたかと思うと、やがてジャランジャランと、重いくさりをひきずるような音にかわった。
武蔵野のこの古めかしい一軒家の、地の底からひびいてくるその物音……それはなんともいえぬ気味悪さだった。
ダイヤのキング
「おじさん、おじさん、あれはなんの音ですか?」
文彥は思わず息をはずませた。老人もいくらかあわてたようだったが、しかし、べつに悪びれたふうもなく、
「そんなことはどうでもよい。それよりも文彥くん、早く左の腕を見せておくれ」
物音はいつの間にかやんでいた。文彥はしばらく老人の顔をながめていたが、やがて思いきって上著をぬぐと、グ��盲去伐慳膜韋餞扦頦蓼�轆ⅳ菠俊@先摔悉�いい毪瑜Δ恕⒆螭甕螭文趥趣頦勝�幛皮い郡��
「ああ、これだ、これだ。これがあるからには、きみはたしかにわしがさがしていた文彥だ」
老人の聲はふるえている。それにしてもこの老人は、いったいなにを見たのだろう。
文彥は左腕の內側には、たて十ミリ、橫七ミリくらいの、ちょうどトランプのダイヤのような形をした、|菱《ひし》がたのあざがあるのだ。文彥はまえからそれを知っていたが、いままでべつに、気にもとめずにいたのだった。
「おじさん、おじさんのいうのはこのあざのことですか?」
「そうだ、そうだ、それがひとつの|目印《めじるし》になっているんだよ」
「それで、おじさん、ぼくにご用というのは……」
「実はな、あるひとにたのまれて、ずうっとまえからきみをさがしていたんだよ。やっと望みがかなったわけだ」
「おじさん、あるひとってだれですか?」
「それはまだいえない。でもそのことについて二、三日うちに、きみの家へいっておとうさんやおかあさんとも、よくご相談するからね」
まったくふしぎな話である。けさから起こったこのできごとが、文彥には夢のようにしか思えなかった。えたいの知れない渦のなかにまきこまれて、グルグル回りをしているような、または、なにかに酔ったような気持ちなのだ。
文彥と老紳士は、しばらくだまって、たがいに顔を見合っていたが、そのときだった。この家のうらあたりで、なんともいえない一種異様な、それこそ、ひとか、けもの[#「けもの」に傍點]かわからぬような叫び聲が、一聲高く聞こえてきたかと思うと、やがてろうかをドタバタと、こちらのほうへ近づく足音。
文彥と老紳士は、スワとばかりに立ちあがったが、そこへころげるようにはいってきたのは……ああ、なんという奇妙な人物だろうか。
背の高さは二メ��去毪瀝��ⅳ蓼毪僑�Lの選手のような、ガッチリとしたからだを、醫者の著るような、白衣でつつんでいるのだが、その顔ときたらサルにそっくり。西洋の土人のように髪がちぢれて、ひたいがせまく、鼻が平べったく、しかも、おお、その聲。……なにかいおうとするのだが、あわてているのか、あがっているのか、人間ともけものともわからぬ聲で、ただ、ワアワアと叫びつづけるばかりなのだ。
文彥はあっけにとられて、そのようすをながめていたが、それに気がついた老紳士は、